ワーケーションについて考える

ワーケーション(イメージ図)

はじめに

既にご存知の方も多いかもしれませんが、最初に「ワーケーション」とは何なのか?について、ここで簡単に触れておきたいと思います。これは、“仕事=ワーク”と“休暇=バケーション”を組み合わせた造語です。休暇中に訪れる観光地等で、テレワークをする形態を指し、政府も注目している働き方の一つです。いわゆるワークライフバランスの一種ともいえ、新しい働き方の一形態と言えるでしょう。

今回は、世間で話題となっている「ワーケーション」について、人事労務の実務に携わる者の視点から、これを考えてみたいと思います。

解決すべき課題

新しいことを始めるときには、色々と批判はつきものですし、反対の声もあがるものです。しかし、個々人が持つ価値観の多様化が叫ばれる現代社会において「ワーケーション」という新しい働き方が見いだされ、制度として確立することは有意義なことだと考えます。とはいえ、新しい働き方の一つとして確立させるのであれば、解決しなければならない問題点があることも確かです。

労働時間に代替する概念の確立

現状、日本の労働法制は、労働時間と賃金は切っても切り離せない関係にあります。時間は誰の目から見てもはっきりしています。誰しも1分は1分、1時間は1時間だからです。ゆえに、労働時間と賃金による管理が現在まで行われてきています。しかし、ワーケーションは、仕事と休暇が混在する働き方です。時間管理に依拠する勤怠管理では限界があります。ワーケーション期間中の勤怠管理、すなわち残業等をどのように考えるのか?この部分のルールを明確にしておかないと、労働の現場で混乱が生じるでしょう。なぜなら、勤怠が賃金に反映されるからです。

したがって、労働時間に代わる概念が必要となるでしょう。これを「成果」に代替させようとする動きは、90年代後半から言われ続けていますが、なかなか浸透していかない現実があります。企業にとって「成果」とは、すなわち「利益」に他なりません。ハッキリとした「成果≒利益」が数値化できる営業職等の場合は馴染むかもしれませんが、直接的な企業利益に直結しない職種は数多く存在します。こうした職種に携わる人たちには、成果指標で管理することは難しいと言わざるを得ません。

権限や裁量の不十分さ

どこまでの権限、裁量を与えられているかが不十分なケースが多く見受けられます。権限委譲や裁量を与えると言えば聞こえはいいですが、実際個人で決められることは極めて限定的で、自由に判断する余地がないといったものが典型例です。なぜこうしたことが起きてしまうのか。日本は職務概念が希薄だからなのだと思います。職務ごとの整理がされていないために、権限や裁量を与える境界線が困難な訳です。

ワーケーションは、避暑地等の観光地で仕事をするのですから、ある一定程度の権限や裁量が与えられた前提でなければ難しいでしょう。上司の判断を仰いたうえで仕事を進めなければならないものばかりであれば、バケーション部分を楽しもうにも楽しめません。就業場所が変わっているだけで、ワーク、ワークの連続になることが目に見えています。

この職務基準の整理をきちんと行えば、評価を行う際の基準や待遇決定に生かすことができます。ある仕事を処理するために必要な知識や技能をはじめ、職務遂行能力(成果につながる職務行動)が明らかになるためです。さらに言えば、この職務遂行能力は、先で述べた労働時間に代替する可能性をも秘めていると言えるでしょう。

労災事故の扱い

一般的な勤務時間中の事故であれば、労災事故として取り扱われます。しかし、ワーケーション中に起きた事故(ケガ・病気)は、どう対処するかという問題があります。現状の健康保険と労災保険は、私的なものか業務上のものかで保険給付を明確に区別しています。仕事とプライベートの境界線が曖昧な働き方になる訳ですから、実際に起きた事故に対し、どのように取り扱うかを事前に決めておくべき必要があると言えるでしょう。

なぜなら、ここは過労問題にも関係する部分だからです。仮に表向きはワーケーションだったとして、実際は仕事づけの毎日だったようなケースを考えてみましょう。会社の指示でそうなったのであれば別ですが、本人が望んでそれを実行した結果、過重労働による何らかの健康障害が引き起こされたとなったとき、これを労災扱いになるかは微妙なところです。すべての事案を網羅することはできないにせよ、ワーケーション実施下において、どのような状況のときに労災扱いとするかは、あらかじめ一定の基準を国側で設けておく必要があるのではないでしょうか。そうでなければ、常に会社側に労務リスクが付きまとうことになりかねません。

向く仕事・人

ワーケーションが向いている仕事は、大前提としてリモートが可能な職種です。職場や現場にいなければ成立しない職種は、当たり前ですが不可能です。

次に、ワーケーションに向いている人は、自己管理(セルフマネジメント)ができる人と言えます。これを持ち合わせていなければ、仕事とプライベートの切り分けが難しくなり、かえって過重労働に陥る危険性があるからです。

総務省が実施する「テレワーク人口実態調査」において、テレワーカーの声として「労働時間が増えた」「効率が下がった」というデメリットの声が挙げられています。もちろん「自由に使える時間が増えた」とか、「効率が上がった」とメリットを答えた人たちも同じ数ほど存在しています。この両者の違いは、自己管理が可能か否かによるものと考えることができます。

さらに言えば、自己管理能力を持ち合わせている人物だとしても、その能力を生かせる職場環境になければ、上述した通り、デメリットが前面に出てしまう結果となることは否めません。

以上を総括すると、どのような仕事や人物にワーケーションがハマるかが浮かんでくると思います。これを現状に当てはめて考えてみると、リモートで仕事を行うことに支障のないフリーランス(個人事業主)や、経営者といえるでしょう。自身の裁量で仕事の采配ができ、時間管理も自由に行うことが可能だからです。また、労働者でもないため、労災問題も浮上しません。すべては自己責任の世界だからです。

おわりに

少なくとも現時点では、元も子もない話になってしまいますが、ごくごく限られた一部の方々の働き方でしかないと言えます。働く多くの方々にとっては、現実性に乏しい働き方と言えるのではないでしょうか。

ちなみに、誤解のないようにここで断っておくと、私はワーケーションを否定したいのではありません。しかしながら、多くの人たちにとっての新しい働き方として、真剣にこのワーケーションを確立しようとしているのであれば、先で述べたような解決すべき課題を解消する必要があるということです。これらに目を背けて無理に実行しても、形だけのもので普及しない可能性は極めて高いと言えます。

皆さんはこのワーケーションをどのように考えられますか。

特定社会保険労務士。専門分野は人事・労務。 〔事務所〕SRC・総合労務センター

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