「在宅勤務手当」に係る割増賃金の取扱いについて

労務管理

はじめに

コロナ禍を契機として、在宅勤務制度が一気に普及したことは記憶に新しいと思います。その際、社員個々人の自宅で就業させるため、水道光熱費や電話料等の通信費といった諸経費を補てんする目的で、企業が在宅勤務社員に対し「在宅勤務手当」として支給することも多くみられるようになりました。一方で、この「在宅勤務手当」は、割増賃金の計算に含める手当であるのか?そうでないのか?実務上、曖昧なままでした。

今回の通達が出される前から、大前提とされるポイントは「在宅勤務手当」の性質が「労働の対価」として支払われているか否か?(※)です。名称が「在宅勤務手当」であったとしても、支払われる内容が「労働の対価」的側面を有すれば、例え「在宅勤務手当」という名称であったとしても、割増賃金の計算に含めて算出しなければなりません。

※参考条文

【労働基準法第11条】
この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。

【労働基準法第37条第1項】
使用者が労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が1箇月について60時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

【労働基準法第37条第5項】
第1項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。

【労働基準法施行規則第21条】
労働基準法第37条第5項の規定によつて、家族手当及び通勤手当のほか、次に掲げる賃金は、同条第1項(時間外労働・休日労働)及び第4項(深夜労働)の割増賃金の基礎となる賃金には算入しない。
①別居手当
②子女教育手当
③住宅手当
④臨時に支払われた賃金
⑤1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金

この大前提となるポイントを踏まえたうえで、一般的に「在宅勤務手当」を支給する目的は、社員が自宅で就業することにより生じた諸経費(水道光熱費・通信費・電算費等)に対する補てんです。そのため、実費的な側面が強いものだから、割増賃金の計算からは除いている会社が多いと思います。

筆者も、この点につき、過去に相談を受けることが多かったのですが、まず(ア)諸経費としてみる範囲を確定する(どこまでの経費をみるのか)、(イ)就業に要した時間分の費用算出方法といった点を明確化した上で支給される手当であれば、「実費弁償」であることを主張する一方、「労働の対価性」を否定できる可能性が高いです。これが可能であれば、仮に割増賃金の計算根拠から「在宅勤務手当」を除いて計算したとしても、未払い賃金となるリスクは低いだろうと判断し、その場合は、これを除いて計算しても許容されるのではないか…と回答していました。

(ア)、(イ)の一例は次の通りです。

(ア)の具体例
在宅勤務に係る諸経費の範囲 → 通信費(インターネット・電話料)、水道光熱費
※在宅勤務規程等で規定化しておく。
(イ)の具体例 通信費が月額7,000円だった場合
7,000円÷744時間(※1)×168時間(※2)≒1,581円※1:暦日31日 31日×24時間=744時間
※2:1か月要勤務日数 21日×8時間=168時間とした場合

ただ現実的に、ここまでしている会社は、ごくごく少数で、在宅勤務する社員に対し、「月額3,000~5,000円」を在宅勤務手当として一律支給している会社が多数を占めていました。この点から、「実費弁償」的な意味合いが薄れるとともに、「労働の対価性」ありとされる危険性があるため、一律支給している会社に対しては、未払い賃金リスクを低下させる意味でも、割増賃金の計算に含めて残業単価を算出するよう回答していました。

このように、曖昧であった訳ですが、今般、行政から正式な見解(行政通達)が出されました。ここでは、そのポイントを整理しておきたいと思います。

「実費弁償」の考え方

「在宅勤務手当」を「実費弁償」というためには、次の3点が必要とされました。

【1】労働者が実際に負担した費用のうち、業務のために使用した金額を特定し、その金額を精算したことが外形上明らかである必要があること
【2】就業規則等で実費弁償分の計算方法が明示されていること
【3】計算方法が、在宅勤務の実態(勤務時間等)を踏まえ、合理的・客観的な計算方法であること。

ちなみに、在宅勤務に際し、必要となる諸経費の精算がされずに、定額手当として月々支給していて、在宅勤務に必要な費用として使わなかった時も会社に返金する必要がないものであれば、実費弁償には該当せず、労働対価としての賃金に該当するため、割増賃金の計算に含めなければならないことが示されました。

「実費弁償」の合理的・客観的な計算方法について

先の【3】に示した「在宅勤務の実態(勤務時間等)を踏まえ、合理的・客観的な計算方法」と認められるために、下記の3つが示されました。

<1>国税庁「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」
<2>国税庁の計算方法の一部を簡略化した計算方法
<3>実費の一部を補足するものとして支給する額の単価をあらかじめ定める方法

<1>について

国税庁「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」に示された計算方法。

<2>について

在宅勤務手当を支給する月を起点として、直近の過去複数月(3か月程度)の各料金の金額と、複数月の歴日数・在宅勤務をした日数等を用い、業務のために使用した1か月の各料金の額を、1の例で計算する方法。この方法を用いた場合は、在宅勤務手当の額を毎月改定する必要がなく、実費弁償として一年程度を目安に継続支給することが示されています。なお、一年経過後には、改めて同様の計算方法に基づき、在宅勤務手当額を改定します。

留意点は、あくまでも「実費弁償」であるためには、「在宅勤務手当<実費」であることが必要です。仮に、「在宅勤務手当>実費額」である場合は、この上回った差額部分は、割増賃金の計算に含めなければなりません。要するに実務的には、「在宅勤務手当<実費」としておくことが肝要です。

<3>について

在宅勤務に要した実費の補てんとして、あらかじめ在宅就労1日あたりの単価を合理的・客観的に設定しておき、在宅就労日数を乗じて得られた額を「在宅勤務手当」として支給する方法です。この場合も、2.の場合と同様に、在宅勤務手当の額が、実費に要する額を上回っていないことが前提となるため、留意しましょう。

「合理的・客観的な1日あたりの単価」を算出する方法として、次の手順が示されています。

(ア) 当該企業の一定数(=単価を合理的・客観的に定めたと説明できる程度の人数を確保)の労働者について、国税庁FAQ問6から問8までの例により、1か月当たりの「業務のために使用した基本使用料や通信料等」「業務のために使用した基本料金や電気使用料」をそれぞれ計算する。

(イ)( ア)の計算により得られた額を、当該労働者が当該1か月間に在宅勤務をした日数で除し、1日当たりの単価を計算する。

(ウ) 一定数の労働者についてそれぞれ得られた1日当たりの単価のうち、最も額が低いものを、当該企業における在宅勤務手当の1日当たりの単価として定める。

なお、この<1>~<3>の「実費弁償の合理的・客観的な計算方法」は、就業規則(給与規程)等に明記しておく必要があります。

不利益変更の可能性に注意

今回、割増賃金の計算に「在宅勤務手当」を含めなくてもよいとされるルールが具体的に示されました。
一方で、既に「在宅勤務手当」を支給し、割増賃金の計算に含めている会社が、今回のルールに則って「在宅勤務手当」を支給することにした場合は、割増賃金の計算に含めなくてもよいことになるため、社員側にとっては、残業時間単価が低下することが考えられます。これは、労働契約法に定める「労働条件の不利益変更」に該当する可能性が指摘されています。したがって、支給方法を見直される際は、社員個々人と協議し、個別同意のうえ、見直すべきでしょう。

おわりに

一定のルールに基づき支給される手当は、割増賃金の計算に含めなくてもよいとされる手当として、家族手当や通勤手当、住宅手当等があります。しかし「在宅勤務手当」については、を割増賃金の計算に含めて支給すべきか否か?明確なルールがなかったため、実務では非常に悩ましい問題でした。

今般の行政通達が示されたことによって、この問題が解消されそうです。いま一度、貴社の「在宅勤務手当」と照らし合わせて確認してみることをお勧めします。


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佐藤 正欣

佐藤 正欣

SRC・総合労務センター 特定社会保険労務士。株式会社エンブレス 代表。専門は人事・労務。

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